院長ブログ

総おひとり様社会

2020年の国勢調査では、単独世帯が一般世帯の38%を占めたとのこと。

東京都に限ると50%を超えている。

夫婦と子供2人という旧モデル世帯は1割を切る。

3世代同居は4.1%。

※日本経済新聞より

 

1人は気ままでいい。

私は50年間、いつも誰かと一緒に暮らしていたし、ずっと仕事をしていたから、1人でいられる時間などほとんどなかった。

子育てが終わり、1人で過ごす時間が断然増えた。

時々家族と過ごす時間は大切だし愛おしいと思うが、ひとり時間の快適さは捨てがたい。

長年1人暮らしを続けている人たちが、「他人と一緒に暮らすなんて無理」と口を揃えるのも理解できる。

適度な繋がりを感じながらも自由でいたいと思ってしまう。

まぁ、要するに、私はわがままな人間だと思う。

社会(社会って誰?)が個人主義を目指し、民意がそれを許容した。

個人の権利主張が強くなった。

これは欧米社会を模倣したからに他ならないが、表面的な制度だけを輸入し、魂が伴っていないからおかしなことになっている。

もともと日本人は控えめで謙虚で、空気を読み、周囲に合わせることが得意だし、善しとする文化だ。

個人の権利より、公の利益を優先してきた国だ。

この同調圧力は、コロナ禍で露になった出来事である。ある意味恐ろしかった。

私も若いころはアメリカ留学なんてしたものだから、そういう日本の堅苦しい習慣を毛嫌いしたものだ。

しかし、長く生きて、いろいろ経験し学んでいくうちに、日本の歴史、文化、精神性というものの成り立ちを知ると、張りぼてのような制度設計には無理があると思う。

日本人らしさという大和魂を無視しては上手くいかない。

 

80代の知人が現役で働いていた1980年代頃、彼女の会社では連休取得は4日間が限界だったという。

1週間も取れる雰囲気ではなかったし、皆もそんなものだと思っていたという。

4日間の短い海外旅行にたくさんのOLさん達が参加していたそうだ。2泊4日の旅??

私が研修医として働いていた90年代も、夏休みは1週間もなかったし、有休休暇という概念すらなかった。これは医師という属性だったからかもしれない。

真面目にコツコツ働くことが美徳であり、自分の出来ることが増えると純粋に嬉しかった。

休みもなく働くことがカッコ良かったから、睡眠時間を削って仕事した。

それでも夢と未来があったから苦にならなかった。

20年以上経った今、働き方は大きく変わった。

有休や育休取得を推奨し、残業を減らすことが良いとされる空気を感じる。

労働時間は1996年に1915時間、2021年は1651時間へ減少。

ところが日本国民1人あたりの労働生産性は1996年からほぼ横ばいとのこと。

米国は2.5倍、英国は2倍に増加しているのと比べると、停滞感を実感する。

労働時間は減ったけれど、仕事の成果も減ってしまったということ。

働き方改革は何か間違っているのだと思う。

真面目にコツコツ、人のためになる仕事をしている人が報われる社会であって欲しい。

 

 

さて、権利主張の激しい個人主義社会を模倣した日本。

核家族化が進み、とうとうひとり暮らしがスタンダードになった社会。

ひとり暮らしの高齢者をどうやって支えていくかが大きな課題である。

自由には責任と義務が伴うという原理原則を忘れてはならない。

人はひとりで生きていくことなどできず、家庭や学校、会社という社会の枠組みの中でたくさんの人たちの助けを借りている。

謙虚で驕らず、感謝の気持ちを忘れない。

そして「忠恕」の心で、志欲を持って生きていたい。

 

 

 


謹賀新年「忠恕」

皆様、お正月はいかがお過ごしでしたか?

私は年が明けて、比叡山延暦寺へ向かいました。

何年か前に学会帰りに立ち寄った際、仏教のパワーに圧倒されて興味を持ち始めたきっかけが比叡山延暦寺でした。

今回は宿坊に宿泊

琵琶湖が一望できる静かな山奥です。

精進料理を食べ、お布団は自分で敷きました。

贅沢なホテルや旅館と比べると、ミニマムで無駄のないサービスが清々しいとさえ感じます。

とにかく人が少ないのが最高の贅沢

翌朝早朝から朝のお勤めに参加。

毎日毎日お坊さんはお経を唱え続けます。

延暦寺では、年初に1年の言葉を発信しているとのことで、令和6年は「忠恕」です。

誰に対しても真心と思いやりを忘れずに、という意味です。

論語に出てくるこの言葉をとても大切にしていたのは渋沢栄一。

今年は、クリニックの必須図書に「論語と算盤」を選んだので、何とも偶然ではありませんか。

真心って何でしょうか。偽りや飾りのない心ということですが、どうも私にはピンときません。

「忠」は「中の心」と書きますね。

それは偏りのない心という意味だそうです。

よって忠恕は、公平に人を扱い、愛と慈悲の心を持って接するということになります。

言うは易く行うは難しーーーーー

偏見と差別でモノを見がちな自分を反省しつつ、忠恕・忠恕・忠恕と念仏のように唱えています。

 

比叡山を後にして向かったのは、「大江山 行く野の道の遠ければ まだふみもみず天橋立」

小学生の頃、百人一首で知った天橋立です。

予想通り、風光明媚な場所でした。

そしてさらに北上して伊根の舟屋

 

こちらは古き良き時代を感じられる、日本らしい景色です。

日本版ヴェネチアと言ったところでしょうか。

日本海側京都北部は、過疎化は否めないものの、日本の観光資源の宝庫のような場所でした。このような日本らしい風景を大切に守りたいものです。

 

これからの旅は、いかに人込みを避け、静かな場所で心豊かな時間を過ごすことが大きなテーマです。

歴史好きな私としては、古代史や神社仏閣など絡めて旅を続けたいと思います。

そして旅で感じ取ったことを、必ず仕事に活かして参ります。

 

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

2024年1月7日 自宅にて

忠恕を唱える山口麻子

 


2023年を終えて

本年の診療は全て終了いたしました。

皆様にとって、2023年はどのような1年となりましたか?

コロナも明けて、活動的にお過ごしでしたでしょうか。

 

【プライベート編】

私は、昨年脳梗塞になった父のケアに、心身ともに振り回された前半でした。

悔しくて涙したこともありました

ところが人間の回復力は凄いもので、父はやる気と自立心を取り戻しつつあり、最近は泣き言さえ言わなくなりました。失語症ですが、リハビリの甲斐あってかなり話せるようになり、図々しくあちこち歩きまわっている様子です。

ケアマネジャーさん、訪問看護師さん、クリニック、銀行などあらゆるところに監視の目が行き届いているため、何かあれば迅速に連絡を下さるので、本当に有難い限りです。

お陰様で私は精神的にだいぶ楽になり、通常運転再開です

高齢で病気を患う親との付き合い方を経験し、あまり干渉せず、余程のことではない限り自由にさせておくのが肝だと学習しました。

頼まれたら手を貸す。

こちらからあれこれ口を出さない。

子育てと同じです。

 

【仕事編】

T&R(信頼と尊敬)を探求し続けた1年でした。

18年間もクリニックを継続出来ているのは、患者様との長きにわたるT&Rを積み重ねてきたからと思えます。

ずっとT&Rを意識していた訳ではありませんが、患者様の期待には何としてでも応えたいという気持ちを強く持ち続けたことで、結果的にT&Rを築くことができたように思います。

「相手はどんな人で何を求めているのか。相手のために何ができるのか。」

今年はスタッフに入れ替わりがありました。

1人が鍼灸の専門学校に通い始めたため、新しいスタッフ2名が入社しました。

昨年も新しいスタッフが2名入りましたので、新参4名、古参3名となり、いろんな意味で化学反応を起こしているようです。

年初に掲げた通り、スタッフを増員して残業を減らすという目的は達成できました

当院は院長の私が全責任を持って患者様の診療にあたることが特徴です。

そして、診療をサポートし、患者様に徹底的に寄り添うスタッフの存在は欠かせません。

礼儀正しく、丁寧な接遇をするよう、日々スタッフに声掛けしております。

笑顔! 挨拶! 静かに歩く! 扉は手を添えて閉める! 身なりを整える!

小姑みたいに注意する自分が嫌なのですが、自分への戒めも含め、気持ちの良い人間でいられるよう精進し続けたいと思います。

スタッフ同士も、スタッフと院長も、T&Rを構築して気持ちよく働ける環境を整えます。

そのためには、どうしても「人事評価制度」が必要なことは数年前から分かっていたのですが、なかなか手に付かず。

ようやく今年から本腰を入れて制度設計を始めました。

オンライン学習を進めつつ、週1回、スタッフリーダーの西田とミーティングを続け、だいぶ形になってきています。

クリニックにとってもスタッフにとっても、働く幸せを実現するための人事評価制度です。

働く幸せとは? 将来の夢とは? クリニックで働く意義を見つめ直し、お互いのゴールを設定します。

院長がそれぞれのスタッフに対する期待職能を言語化します。

職業能力に合わせて役職と給料を設定します。

成長できるような教育制度を作ります。

設定したゴールに対する評価を行います。

・・・みたいなことをやっています

 

「毎年5%成長を続けることで、人としての器をストレッチさせましょう

年末の納会で、私はこのような挨拶をしました。

「毎月3万円を利回り5%で運用したら、30年後にはいくらになるでしょうか?」

という質問を投げかけました。

単純に無利子で毎月3万円貯金を続けたら、30年後には1080万円ですが、5%の複利を続けたら約2500万円になります。2.5倍です。

お金を投資しろと言っているのではなく、自分に投資せよと言いたいのです。

自分の能力が高まり、器が大きくなれば、出来ることが増えます。

心に余裕があれば、人に優しくできます。

良い治療を行うには、かなり複雑な能力が必要だと思います。

①コミュニケーション力。信頼関係を築くこと。

②1人ひとりの患者様の特性をよく知ること。

③治療によって得られるメリットとデメリットを天秤にかける。

④患者様に喜んでいただける治療結果を想像する。

⑤治療技術を磨く。

⑥治療のベストタイミングを提案する。

⑦自分自身の心身の状態を整えておくこと。

⑧責任感と慈悲心を忘れない。

⑨恐怖心に打ち勝つメンタルを鍛える。

⑩人気者になること。

他にもいろいろあると思います。

仕事の本質は、「相手の悩みを解決すること」です。

そのために、自分の器を少しずつストレッチし、出来ることを増やしたいと思います。

私は50歳を超え、体力や記憶力など様々な身体能力は低下していると思いますが、恐れながら治療に関してはまだまだ上達しているとさえ感じています。経験や知恵が役に立つ仕事内容だからでしょうか、それともただの思い込みでしょうか←痛い人

自分の直感を信じて生きていますので、自己成長を感じられるうちは、診察室での仕事を続け、皆さまに幸せに尽くします。

老婆が裸の女王になっていたら、どなたか苦言を呈して下さいませ。

 

仕事から解放され、今年をあれこれ振り返っていたら、取り留めもない長文になってしまいました。

今年もお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

ご年配の患者様からも「先生のブログ、読んでいますよ」と言われることが増え、嬉しい限りです。

これからも楽しい経験を積み重ね、内容を充実させたいと思います。

来年もよろしくお願い申し上げます。

良いお年をお迎えくださいませ。

 

2023年12月30日  自宅にて

山口麻子

 

 

 


集中

12月らしい診療が続いています。

年末なので、皆さまのご期待に応えようとあれこれ治療内容を増やしてしまうので、だんだんズルズル診療時間が長引いてしまいます

ここで焦ってしまうと、適切な判断力が鈍ってしまい、最良の結果を出すことができません。

焦らず、目の前の患者様に集中するよう心がけています。

息子が高校生の頃、いろいろ心配で干渉するうるさい母親(私)に対して、「お前は仕事に集中しろ!」と逆切れされたことを思い出します。それ以来、診療中焦りそうになる自分に対して「集中しろ!」と心の中で呟きます。すると、不思議なくらい集中できるのです。

集中していると時間を忘れ、ズルズル診療が長引いて、次の方をお待たせすることになります 今月は担当スタッフに診療時間を意識的に声掛けしてもらうよう頼んでいます。

皆様の貴重なお時間を守るよう、スタッフが治療内容を事前に把握し、予約時間を上手に調整しておりますが、それでも生身の人間を相手にしていますと、そうそう時間をきっちり守れるものではございません。

特にヒアルロン酸注入は、かなり神経を使います。

きれいな結果を出すために、まずはデザイン。注入ポイントを正確に決めます。正しい場所に適切な量をゆっくり丁寧に注入します。そして微調整が必要です。ほんの0.05ccでも結果に大きく影響します。不足気味では十分な満足が得られませんが、入れ過ぎは絶対にダメダメちゃん。いつもいつも80%の結果を胸に刻み、ちょっと足りないくらいの仕上がりを目指しています。

また、内出血を起こさぬようしっかり止血しながら治療しますので、これまた時間がかかります。

針の刺入部からぴゅ~っと血が出たら、2分間全力で止血すると、青あざを残しません。

だから焦ってはならないのです。

最後はいろんな角度からライトを照らして最終確認をします。

凹凸がないか、シコリはないかなど診て、触ってチェック。

マッサージで馴染ませます。

注入治療は結果が一目瞭然。

「うゎぁ、上がった!すごい!」

患者さんに仕上がりを確認していただく瞬間がたまりません

この仕事をやっていて、本当に良かったと心の底から喜びが込み上げます。

私は仕事が好きだワン。

織田信長より年を取ってしまいましたが、それでもなお、もっともっときれいな治療ができるよう上手になりたい欲は止みません。これは志欲だからいい欲なのでしょう。

 

ヒアルロン酸注入は、加齢により顔のボリュームが減少し、たるみが気になってきた状態を改善させる治療です。

目の下のたるみ、ほうれい線、マリオネットライン、頬やこめかみの凹みを改善させます。

たるみが酷くなる前に、少しずつ治療していくと、無理なく自然なアンチエイジングが実現できます。

 

言い訳がましいのですが、予定の時間に診察室に入れなかった場合は、「あ、先生は集中しているんだな」と大目に見て下さいませ。

今年もあと僅か。

集中力を切らさぬよう頑張ります

 

 

 


渇愛と志欲

「渇愛」という仏教用語があります。

食欲、睡眠欲、性欲、物欲、承認欲求などは、人体の穴(目、耳、鼻、口、肛門など)を満たす快楽。

GIVE and TAKEのTAKEによって得られる満足です。

渇愛という人間の欲望は際限がなく、何か満たされると、またその先を求めて、、、を繰り返してしまいます。

 

渇愛の分かりやすい例が、お金という欲でしょう。

収入は上を見ればキリがありません。

1000万、5000万、1億、5億、10億、いくらあれば安心するのでしょうか。

ハイブランド商品や宝石、高級車、クルーザー、別荘、自家用ジェット。

最近は宇宙旅行でしょうか。

我々人類はどこへ向かっているのでしょうか。

資本主義欲望まみれの世の中では「もっと売って、もっと利益を上げて」が当たり前の目標になっているから、人間はどんどんエネルギーを消費して、環境破壊を続けています。

環境意識の高い方が、「地球は死にませんよ。死ぬのは私たちです。」とお話されていました。

ドキッとしました。

地球に優しいとか言っている場合ではなく、我々人類が生きられなくなってしまうというダイレクトな表現は胸に刺さります。

 

「美容欲求」も渇愛だと思います。

もっときれいに、もっと美しくなりたいループにハマる人がいます。

これは虚しく、いつまでたっても満たされない永遠のラットレース。

渇愛的美容は不健全ですし、多くを求め、過剰な美容医療を受けても顔は張りぼて、美しい生き方と思えません。

どこかで「まあ、こんなものか」と割り切りながら、ほどほどに持続可能なメンテナンスをしている人は健全な精神の持ち主ですし、きれいでいることがQOLを高め、人生の本質部分に貢献できれば、それは丁度よい美容欲求だと言えるでしょう。

美容医療に携わっていると、自分のやっている仕事は、視覚的客観的に肌を美しく清潔に整えるということが使命であり大前提なのですが、その人の心が美しく整うように美肌治療をしているような感覚があります。

私自身が身に付けた美容医療のスキルや考え方を通して、人としての生き方を見つめ直し、自分も社会もより良くしたいという志の方々が増えたらいいなぁと思っています。

 

渇愛の虚しさに気付いたのは40代半ば頃でしょうか。

知足できたことは良かったのですが、人生の目標を見失った気分になりました。

欲が無ければ成長が止まってしまうかもしれないという漠然とした焦燥感から、本心では願ってもいない目標設定をすることもありましたが、何かおかしいといつも心の中に小さなしこりを感じていました。

お釈迦様は、「志欲を満たしなさい」と言います。

志欲とは、自分の持てる能力を人のために活かすということです。

GIVE and TAKEのGIVEによって得られる満足ですね。

何を与えることができるのか?については、個人個人の得意なことによって個性があっていいのです。

今年はクリニックの人事制度を作成するために、動画で学習を続けているのですが、その動画の中で、繰り返し出てくる言葉を紹介します。

「相手はどんな人で何を求めているのか。相手のために何ができるのか。」

これはまさに志欲ではないでしょうか。

私自身は、まだまだ志欲ばかりではなく、恥ずかしながら少しは渇愛も残っています。

若い頃は100だった渇愛も、今は10くらいに減りました。

減った90が全て志欲になっているかというと、そんなことでもないような気がします。

これからは、相手のために何ができるのか?を真剣に考えながら、自分の持てる力を惜しみなく他人に降り注げるような人間になりたいと本気で考えるようになりました。

今まで学んできたことを掛け合わせて、世のため人のために自分の力を使える人に成長したいと思います。

35歳で悟りを開いたお釈迦様の教えは、2600年経っても色褪せず、人生の本質を捉えていることに畏敬の念を抱きます。